胸の痛みについて
日本人女性の9人に1人が乳がんを発症するといわれ、著名人の乳がん公表などをきっかけに、多くの人が自身の胸の健康に関心を寄せるようになりました。その結果、これまで気付かなかった胸の症状に気付くことや、痛みを感じて不安になる方も多くいらっしゃいます。なかには、「最近、定期的に胸が痛くなるようになった」と悩む方もいるのではないでしょうか。胸の痛みと乳がんの関連性、乳がんと間違えやすい症状とその特徴について解説します。
胸に痛みや腫れが起きた場合
胸の自己検診で違和感や痛み、腫れなどに気付いたら、乳房の病気を専門とする乳腺外来を受診しましょう。当院では経験豊富な乳腺科医が丁寧に診療を行っております。お気軽にご相談ください。
乳がんと似た症状を示す疾患
乳房に腫れや痛み、しこりなどの症状がある場合、乳がんでないかと心配になり乳腺科を受診される方も多いですが、これらの症状があるからといって、必ずしも乳がんであるとは限りません。乳房の病気には、良性のものも多くあります。
以下は乳がんと似た症状が現れ、鑑別の難しい疾患です。
乳腺症
乳房の検査で乳がんが見つからなかった場合、「乳腺症」と診断されることがあります。ただし、「乳腺症」は特定の病名を指すものではなく、痛みやしこりなどの症状をまとめて表す言葉です。乳房に水が溜まるのう胞も、乳腺症の一種として扱われることがあります。
乳腺症でしこりができる?
乳腺症によって乳房にしこりができると、乳がんではないかと心配になる方もいるかもしれません。乳腺症のしこりは、乳がんのしこりとは性質に違いがあります。一般的に、乳腺症のしこりは境界線がはっきりせず、弾力性があるのが特徴です。
ただし、自己判断は禁物です。しこりが良性か悪性かを判断するには、専門家の検査が必要です。胸にしこりがある場合は、自己判断せずに当クリニックまでお問い合わせください。
乳腺症のしこりは痛みを感じる?
胸の痛みやしこりは、生理周期と密接な関係があり、その状態によって変化します。多くの女性は生理前に胸の痛みを感じやすく、生理が終わると痛みが緩和する傾向があります。また乳房に痛みがあっても、ほとんどの場合、閉経後は自然に症状が軽減していきます。
この背景には、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの存在があると考えられています。エストロゲンが過剰な状態になると、乳腺症による痛みを感じやすくなります。
乳腺炎
乳腺炎は、主に細菌感染によって乳腺に炎症が起こる疾患です。主な症状には、乳房の痛み、赤い腫れ、しこり、高熱などがあります。また、乳房だけでなく、脇の下にあるリンパ節にも腫れや炎症が発生することがあります。
授乳期の乳腺炎
乳腺炎は、産後の授乳期によく見られる疾患です。その主な原因は、以下の2つです。
- 赤ちゃんがうまく母乳を吸えないこと
- 母乳が過剰に分泌されること
これらの原因により、乳腺の中に母乳が溜まると炎症が起こり、「急性うっ滞性乳腺炎」を発症します。
乳腺症の場合、痛みは通常両側の乳房に感じられます。授乳期間が終了に近づくと、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量が増加します。これにより、乳腺に乳腺症変化が起こり、乳房に痛みが生じることがあります。
陥没乳首の方は授乳期以外も注意しましょう
陥没乳頭は、構造上汚れが溜まりやすいため、授乳期でなくても細菌が乳腺に入り込み、炎症を引き起こす「化膿性乳腺炎」を発症するリスクがあります。炎症を防ぐためには、普段から乳首周辺を清潔に保つことが重要です。
このような場合は注意が必要です
乳房が赤く腫れているのに痛みを伴わない場合は、「炎症性乳がん」の可能性があります。炎症性乳がんは、痛みやしこりを伴わずに乳房全体が腫れるのが特徴です。皮膚の変化として、細かい凹凸が目立つようになることがあります。
炎症性乳がんは、乳腺炎と区別がつきにくいほど症状が類似していますが、進行が非常に早く、リンパ節への転移が起こると、脇の下のリンパ節に腫れが見られるようになります。乳房や脇の周辺に異変を感じた際は、自己判断せず当クリニックにお問い合わせください。
乳腺線維腺腫
乳腺線維腺腫は、乳房に発生する良性腫瘍で、触るとコロコロとよく動くのが特徴です。多くの方は、線維腺腫が大きくなり、痛みを感じるようになってからしこりに気付きます。
超音波検査やマンモグラフィなどの画像検査、あるいは細胞診などによって線維腺腫と診断された場合、その腫瘍が悪性腫瘍に変化したり、がん化したりする可能性はありません。
線維腺腫は通常3cmほどまで成長し、それ以上大きくなることは稀です。3cmを超えて大きくなり、痛みなどの症状を伴う場合には、部分切除を行うこともあります。
このような場合は注意が必要です
乳房のしこりが急に大きくなってきた場合、葉状腫瘍の可能性も考慮する必要があります。葉状腫瘍は良性の腫瘍ですが、乳がんとは異なる病気で手術が必要なことがあります。
葉状腫瘍
葉状腫瘍は、乳房にしこりを形成する良性腫瘍です。線維腺腫と似た特徴を持ち、触るとコロコロとよく動きますが、良性・悪性の判断が難しい場合があります。そのため、葉状腫瘍が見つかった場合は手術による切除が検討されます。
葉状腫瘍は、腫瘍だけを取り除くと周囲の組織に再発する可能性が高いです。再発を繰り返すと悪性化するリスクも高まるため、手術では腫瘍の周囲組織を含めた広範囲を切除し、再発予防に努めます。
乳房に違和感を覚える場合はすぐに当クリニックまでご相談ください
乳房の痛みは乳がんによるものではないことも多いです。
しかし乳がんを発症すると、むくみやリンパ節の腫れ、頭痛などの痛みが生じることがあります。特に、骨転移を起こすと激しい痛みを伴います。
乳房のしこりや痛みなどの症状から、ご自身で原因を特定することは非常に困難です。正確な診断のためには、医療機関での検査が必須となります。乳房に異変を感じたら、自己判断せずに、まずは当クリニックにお問い合わせください。