乳腺炎とは
乳腺は、乳房にある母乳を乳頭まで運ぶ管状の組織のことです。乳腺炎は、乳腺に炎症が発生した状態で、授乳中の女性の2〜10%に発症すると言われています。
乳腺炎のよくある症状
- 乳房が張る・硬くなる
- 乳房の赤みやしこり、熱感
- 乳房や胸の痛み
- 黄色っぽい母乳
- 寒気や発熱、頭痛、関節痛など
乳房の違和感だけでなく、寒気や発熱など風邪に似た症状が現れることもあるため、注意が必要です。
乳腺炎の原因
母乳が乳腺内に溜まると炎症を引き起こすことがあり、その状態を「急性うっ滞性乳腺炎」と言います。さらに、この状態で細菌感染が起こると「急性化膿性乳腺炎」へと進行してしまうことがあります。
急性うっ滞性乳腺炎(急性停滞性乳腺炎)
急性うっ滞性乳腺炎は、乳腺に炎症が起こった状態です。その原因として、母乳が乳房に溜まってしまうことが挙げられます。赤ちゃんが飲む量をはるかに超える量の母乳が分泌される場合に起こることが多いです。
授乳の間隔が不規則
授乳間隔が不規則になると、赤ちゃんの飲む量と母乳の生成量のバランスが崩れ、乳腺炎を引き起こすことがあります。
母乳を飲む量が少ない
赤ちゃんが母乳を飲む力が十分でない、飲む量が少ない場合は、乳腺炎を発症することがあります。また、授乳の時間帯によって赤ちゃんの飲む量が変動する場合なども、乳腺炎を発症しやすくなります。
乳管が十分に開いていない
初めての妊娠・出産後の授乳では、乳管がまだ十分に開いていないことがあり、それが原因で母乳が出にくくなります。母乳が乳房に溜まったままとなってしまうことで乳腺炎に繋がります。
乳房が圧迫されている
ブラジャーのサイズが合わず締め付けが強い場合や、前屈みの姿勢で胸部を圧迫し続けることで、乳腺炎を引き起こすことがあります。
急性化膿性乳腺炎
急性うっ滞性乳腺炎を放置したまま、母乳が乳腺に溜まっている状態が半日から1日以上続くと、連鎖球菌や黄色ブドウ球菌などによる細菌感染が起こり、化膿してしまうことがあります。この状態を急性化膿性乳腺炎と言います。急性化膿性乳腺炎になると、高熱や筋肉痛などインフルエンザのような症状が現れることもあります。抗生物質の投与や、切開・排膿といった外科的な処置が必要となることがあります。症状に気づいたら一刻も早く受診し、適切な治療を受けることが大切です。
乳腺炎が起きた場合の対処法
赤ちゃんになるべく母乳を飲んでもらうことが大切です
母乳が乳腺に溜まると痛みが増してくることがありますので、普段から赤ちゃんにしっかりと母乳を飲んでもらい、溜まらないようにすることが大切です。もし、痛みが増してきた場合は、受診して適切な治療を受ける必要があります。授乳中でも安心して服用できるお薬を処方しており、保険適用となるため市販薬を購入するよりも経済的です。
乳腺の詰まりを解消するには、母乳マッサージも有効です。
薬物療法
乳腺炎の症状としては胸の痛みがよく知られていますが、発熱などの全身症状が現れることもあります。これらの症状は炎症によるものであり、適切なお薬の使用によって症状を和らげることができます。当クリニックでは、授乳中の患者様にも安心して服用頂けるお薬を処方しておりますので、ご相談ください。また、状況に応じて母乳を止めるお薬の処方も可能ですので、ご希望や不安があれば遠慮なくお申し付けください。
授乳期間中も服用可能な乳腺炎のお薬
経口用セフェム系抗生剤
抗生物質による治療でよく用いられる薬剤として、「セフゾン」「フロモックス」「メイアクト」などがあります。
イブプロフェン
イブプロフェンは、非ステロイド性消炎鎮痛剤として多くの市販薬に配合されています。比較的安全性が高いとされており、様々な痛みや炎症の緩和に用いられます。
アセトアミノフェン
アセトアミノフェンは、解熱鎮痛剤として多くの市販薬に配合されています。子どもにも使用できる安全性の高い成分であり、発熱や痛みの緩和に役立ちます。
病院やクリニックでは、市販薬と同じ成分を含んだお薬を処方することがありますが、患者様の体質や持病、乳腺炎の状態などを詳しく確認した上で、適切なお薬を選択しております。受診することで、安心してお薬を服用できます。
マッサージ
乳腺炎は、乳管の狭窄・閉塞などが原因で母乳の排出が滞ることで発症することがあります。このような場合には、乳管の詰まりを解消するためのマッサージを授乳前に実施することが効果的です。
乳腺炎の予防
食生活の改善
乳腺炎と食事の因果関係は、まだ十分に解明されていません。しかし、高カロリー・高脂質の食生活は母乳の過剰分泌を招き、乳腺炎の発症リスクを高める可能性があると考えられています。授乳中の女性は、一般成人女性よりも350kcalほど多く摂取することが推奨されていますが、カロリーオーバー気味の方は、和食中心の食生活に切り替えるなどを実施してみましょう。また、授乳中は脱水症状になりやすいので、こまめな水分補給も大切です。ただし、過剰な水分摂取も母乳の分泌量増加に繋がる可能性があるため、1日2リットルを目安に摂取することを心がけてください。
授乳法を改善
授乳間隔や、赤ちゃんの抱き方・飲ませ方を工夫することで、お母さんと赤ちゃんの両方の負担を和らげることができます。
授乳中の赤ちゃんの抱き方
母乳は、乳腺が乳首を中心として放射状に乳房全体に張り巡らされているため、広範囲に蓄えられます。しかし、常に同じ向きで授乳していると、乳腺の一部に母乳が滞ってしまうことがあります。これを防ぐために、赤ちゃんの抱き方を変えることが効果的です。抱き方には、一般的な横抱き、縦抱き、添い寝抱き、小脇に抱える抱き方、お母さんが四つん這いになって赤ちゃんを覆うような抱き方など様々な方法があります。抱き方のバリエーションを増やすことで乳腺の詰まりの解消に繋がります。
おっぱいの飲ませ方
左右の乳房を均等に授乳することが大切です。左右で母乳の出方に違いがある場合は、出にくい方の乳房を先に授乳すると良いでしょう。赤ちゃんがお腹を空かせている時に、出にくい方の乳房から授乳することで、乳腺をしっかりと空にすることができます。